「多額の貸倒損失を計上・・・」会計事務所での強烈な実体験③

会計事務所
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今回は私が経験した過去の強烈な実体験を書いていきたいと思います。
別の記事もありますので、ぜひご覧ください。
・「為替スワップで大損も・・・」会計事務所での強烈な実体験①
・「消費税が簡易課税!?」会計事務所での強烈な実体験②

あるベンチャー企業の事業展開

これは8年前くらいの出来事です。
私はある貿易関係のベンチャー企業(F社)の担当をしていました。その会社は設立して5年ほどの間に急成長し、年商が5億、従業員数が20名程度までになっていました。社長(T社長)は40歳と若く、色々なアイデアを持った魅力のある方で、どちらかというと「感性」で物事を決めていくタイプの方でした。設立6年目をむかえた頃に、T社長から「今の会社から派生した事業を、新しく会社を設立して、別の代表を立ててやりたい。2つの新規事業があるので、同時に2社設立したい。」という話を受けました。今まで自分がプレーヤー兼マネージャーで成長してきたが、それを今度は自分が出資者として、他人に任せて会社を発展させたい、という意図のようでした。私は「T社長らしいなぁ~」と思いつつ、すでに人選も進んでいるとのことで、法人設立を詰めていきました。新設の2社は、T社長個人の出資で設立し、新設法人の代表取締役は2名をヘッドハンティングし、それぞれ就任しました。T社長も2社の取締役として就任しました。基本的にはそれぞれの会社の代表取締役に経営を任せ、T社長は「アドバイザー」といった立ち位置で進んでいくことになりました。

最初からあまりうまくいかず・・・

勢いよく2社はスタートし、それぞれ事務所も借り、スタッフの採用も行いました。最初のうちはF社との取引や、F社の事業の一部を引き継ぐ形で売り上げを作っていきましたが、今一つ業績は伸びず、1年を経過しても2社とも月次での赤字は改善しないままでした。その間の資金繰りは、新設の2社では金融機関との取引が難しかったため、F社からの「借入金」で回っている状態でした。T社長は「1年で結果が出ないのは仕方がない」と前を向いていましたが、私は「2社への貸付金が増えてきてまずいなぁ」と思っていました。2年目が経過していっても、状況は変わりませんでした。この3社との会議は私を含め、毎月行っていたのですが、T社長から他の2人の社長に業績改善の追求をしても、明確な打開策はみつからず、会議の雰囲気が悪くなることもしばしばでした(*´Д`)

最悪の状況に・・・

そんな中、肝心のF社の業績が傾いてきてしまいました(*´Д`) F社は大手商社との取引があったのですが、世間の景気が悪くなり、F社の業態の分野への予算が減ってきてしまいました。また、当時は1ドル80円などというかなりの円高の時代で、輸入を行っていたF社にとって業績を押し上げた1つの要因だったのですが、急激に円安に振れていき、1ドル100円を超えるほどになってきました。
会社は急成長すると資金が足りなくなるので銀行から融資を受けます。F社も例外ではなく、多くの銀行融資を頼りに成長してきたのですが、その返済も徐々に厳しくなってきていました。
当時は本当に不景気で、私は担当先を通して、銀行に対して元金の返済をしばらくゼロ円にしてもらう、いわゆる「リスケ」の案件も数件経験していたため、T社長には、「本当にお金がなくなると身動きが取れなくなるから、少し余裕があるうちにリスケした方が良い」と説明し、その時のための準備は事前に行っていました。そしてある年明けの1月の月次会議の際、「来月からリスケする」とT社長は意思決定をし、銀行との交渉を進めていくことになりました。

懸念材料となった2社

そうなってくると、この2社はますます懸念材料となってしまいます。F社の業績が良かったときはあまり追及がなかったのですが、この2社に対する「貸付金」と「売掛金」が問題になります。設立から3年ほど経過した2社に対する債権の合計が、なんと8000万円くらいになっていました(*´Д`) 銀行からしたら、貸したお金を他社に貸している訳ですから、相当に問題視します。回収可能性についての追求も厳しいものがあります。ただ、当時まだ「金融円滑化法」の影響が多分にあり、色々追及はあったものの、銀行とは何とかリスケの契約にこぎつけることができました。まあ、ないものは支払えないんですけどね(^-^;
そんな中、T社長はこの2社の事業は「失敗」に終わったと結論付け、事業の撤退に踏み切り、借りていた事務所は引き上げ、代表取締役2名は解任し、従業員は同業の他社への転職をあっせんし、区切りとしました。

F社がV字回復!!

その後、F社はT社長の役員報酬の大幅減額や、事業構造そのものの見直しなど、改革を進めていきました。ただ、そんな状況でもさすがだなと感心したのが、従業員給与カットや、リストラなどは行いませんでした。また、辞めたいと申し出る従業員もいませんでした。会社が傾いてくると、会計事務所の担当者に文句を言ってくる社長もいるのですが、私に対してそのようなことは一切ありませんでした。きっと元々の人間としての魅力があったのでしょう(^-^)
リスケをしてから1年ほど経つと、状況が変わってきました。貿易事業には見切りをつけ、為替の影響を受けないビジネスモデルへ変革をしました。取引先の業績が絶好調になった波にものり、業績が大幅に改善してきました。そこで、かなり早い段階でその期の決算の予測をしたところ、なんと1億円の利益が出る見込みとなりました(;゚Д゚) 欠損金が2000万円ありましたが、それでも8000万の利益です。多額の法人税がかかります。まだリスケ中だというのに・・・。

ドキドキの貸倒損失・・・

そこでこの2社の債権8000万円を「貸倒損失」として処理することの検討に入りました。
貸倒損失は、おなじみの通達ですが、下記のいずれかの場合に損金算入できるとされています。
法人税法基本通達
・9-6-1 法律上の貸倒
・9-6-2 事実上の貸倒
・9-6-3 形式上の貸倒

国税庁のHPもご参照ください。
法人税法基本通達 第1款 金銭債権の貸倒

現時点で2社は事業を行っていないので、9-6-2の状態にあるとも考えられるのですが、何せ8000万円の貸倒損失を計上します。中途半端では実行できないと考えました。ですので、2社を一気に整理することにしました。
まず2社に対し、F社は債権の回収ができないことを理由に、債権放棄の通知をしました。ちゃんと内容証明郵便で行いました。すでに2社の元々の代表取締役は解任されており、現時点ではT社長が代表取締役であるため、自分が自分に通知するみたいな感じになるのですが、現在は形式的に2社の代表取締役になっているに過ぎないので、問題はないと考えました。次に2社はその通知を元に8000万円相当の「債務免除益」を計上するのですが、ほぼ同額の「欠損金」があったので、法人税等はかかりませんでした。これで2社はきれいになり、そのまま「解散」→「清算」の手続きを行いました。ちゃんと官報に公告を出し、2か月の期間を設け、清算結了となりました。
これにて2社は消滅してしまいましたので、F社は9-6-1を理由に、貸倒損失8000万を計上し、欠損金2000万円も充当し、その期の法人税等はかからない内容で申告にいたりました。
ちなみに銀行に対しても、2社を放っておくと多額の法人税がかかり、返済原資が減ってお互いに良くない旨を説明し、一定の理解を得て、実行しました。

なかなか神経を使う業務でした(*´Д`) とりあえず、できることは確実に行おうということと、F社の事業年度終了までに2社の清算をしたかったので、スケジュールの確認が重要でした。解散の公告してから、債権者保護のため、2か月は期間を設けないといけないことを守ろうとすると、準備が結構大変でした。
少し懸念があるとすると、そもそも2社への債権が「寄付金」だったのではないかというところです。寄付金とされると、その金額はほとんど損金になりません。実態がどうだったかですが、T社長が2社を通じて私腹を肥やすような事実があったのであれば話は別ですが、そのようなことはありませんでしたし、2社は別の経営者が経営をして失敗しているので、「寄付金」とされることもないと判断しました。

余談ですが、1億円の利益をたたき出したこの期に、社長は従業員に対し、相当額のボーナスを支給しました(^-^) イベント好きな社長だったため、全体会議の際に、「全従業員に月給の3か月分の決算賞与を支給!!」と発表したそうです(^-^; 女性社員の中には泣き出す人もいたらしく、相当に盛り上がったそうです(^-^; みんな大変な中がんばったことが報われた感じだったでしょうね(^-^) ただ、リスケ真っただ中でしたので、「また銀行に何か言われるかな~」ともちょっと思いました(^-^;

その後のF社もいろいろありましたが、がんばって事業を継続させています。
こんな多額の貸倒損失を計上したら税務調査が来るだろうと思っていたのですが、特に調査は行われずに現在に至っています。もう期間も経過していますので、このことを問われることはないと思うのですが、できる限りの準備をした案件だったので、税務署の見解も聞いてみたいと、ちょっだけと思った出来事でした(^-^;

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