詐害行為取消権と税務・・・「租税判例百選を読む⑦」

2科目免除大学院
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詐害行為取消権??

今回は「租税判例百選シリーズ」の7回目です。

※過去の租税判例百選シリーズも、ぜひご覧ください。
①脱税のための手数料は損金になるか??
②メガネの購入は医療費控除できる??
③交際費とは?「オートオークション事件」
④サラリーマンが自家用車を売却して損益通算??
⑤「親子歯科医師事件」
⑥収益事業とは何??・・・ペット葬祭業事件

タイトルがちょっと難しいですね。詐害行為(さがいこうい)と読みます。詐害行為とは、簡単に説明しますと、自分の持っている財産を、他の人に贈与したりすることで、債権者の権利を害することです。これを税務の世界でのケースを考えてみますと、例えば、もうすぐ潰れてしまう会社が、税金を支払うのが嫌なので、保有する資産を他の人にあげたり、他の債権者に優先して返済をして、税金を支払わない、といったことになります。確かに、税金はなるべく支払いたくないのが心情だとは思いますが、今回の事例は、時間軸を検討して、先に税金を支払わないようにと試みた事件のご紹介です。

詐害行為取消権と納税義務成立の要否 横浜地裁小田原支部(平成7年9月26日判決)

【事実の概要】
A社は事業の運営や採算管理、効率のため、子会社B社と、A社の役員の出資でC社を設立しました。A社、B社、C社はグループ企業のような形で、3社間での取引もあり、3社の役員も同じ人が兼務したりしていました。10年ほどは業績も堅調に伸びましたが、その後、B社の業績が悪くなり、赤字が数年続き、B社は事業継続が困難な状況に追い込まれ、事業を廃止することを決めました。B社はX1年に、B社の労働組合と全従業員の解雇と、総額7億円の退職金の支給を決定し、保有する土地建物を売却して、その支給に充てることを予定しました。ただ、すぐには売却できず、いったん銀行から7億円の融資を受け、退職金を支払いました。
翌X2年に土地建物は10億円で売却ができ、そこから譲渡費用3000万円と、銀行の返済7億円を行いました。残りの2億7000万円については、A社からの借入金があったため、その返済に充てました。なお、この借入金のうち3500万円は、C社のA社に対する債務を、B社に振り替えたものだったそうです。
ところで、B社はX2年の決算で、この土地建物の売却により、売却益が8億4000万円ほど計上されました。B社はこの決算で、「事業用資産の買い換え」を予定しているとして、特別勘定により、この売却益のうち課税を繰り延べる目的で3億4500万円を損金として計上し、所得金額0円、法人税0円で申告をしました。(差額は欠損金があったのだと思われます。)
そして翌X3年に、この特別勘定を取り崩し、所得金額2億円、法人税7800万円で申告をしました。その後4年が経過し、延滞税も含めた、法人税9800万円について、B社は滞納したままでした。
そこで国は、詐害行為取消権に基づき、A社を被告として、当時のB社からA社に対する返済2億7000万円について、滞納税金9800万円の範囲で取り消し、支払いを求める裁判を起こしました。

【結論】
「請求認容」、ということで、国の請求が認められました。

ポイントとしては、「租税債権が成立する以前に行われた納税者の行為を、詐害行為として取り消すことができるか」といったところにあります。
判旨によりますと、「詐害行為取消権の被保全債権は、原則として詐害行為以前に発生したものであることを要するが、詐害行為当時、未だ発生していない債権であっても、発生の基礎となる法律関係や事実が発生し、債権の発生が高度の蓋然性をもって見込まれる場合には、右債権も被保全債権になりうると解するのが相当である。」とのことです。
時間軸でみると、土地建物を売却した事業年度では、買い換え特例を適用しているので、確かに租税債権は発生していないですよね。なので、売却で得たお金を、その時の債権者に優先して返済しても大丈夫でしょ、と考えたのだと思われます。ただ、あとの判旨にもありますが、買い替え特例を適用してますが、もう事業は休止している訳ですし、買い換える意思があったとは思えないですよね(^-^; それに3社間も関係も問題ですよね。良くわからい債務の付け替えはしてますし、お互いの懐事情は通じていたでしょうから、税金を支払わないようにするという意図(国を害そうとする意志)で通謀していたと言われても仕方がないと思います(^-^; 

国と戦うには、ちょっと弱かったかな、といった印象でしょうか(^-^; しかしこの不動産、かなり高く売れましたよね~。売却したのが昭和62年だそうでして、ちょうどバブルに入りかけた頃ですね。今では考えられません・・・(*´Д`)
「詐害行為取消権」は民法424条に規定されています。民法は相続税法などを含め、税法とも非常に深い関りがありますよね。私は4月から2科目免除の大学院へ通うのですが、民法についてもしっかり勉強したいと思います(^-^; 

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