サラリーマンが自家用車を売却して損益通算??租税判例百選を読む④

2科目免除大学院
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申告期限が延長しましたが・・・

もう3月に入りました。新型コロナウイルスの影響確定申告期限が令和2年4月16日まで延長しましたね。気分的には少しラクになった気がしていますが、最近は相変わらず確定申告の作業に追われています(^-^; 日々所得税の論点にあたっていますが、申告のタイミングが年に1度ということもあって、改めて所得税は難しいなぁと感じています。
さて今日は租税判例百選から、また一つ判例を紹介したいと思います。この時期ですので、所得税の論点にしました。過去の記事もご覧ください。
①脱税のための手数料は損金になるか??
②メガネの購入は医療費控除できる??
③交際費とは?「オートオークション事件」

サラリーマン・マイカー税金訴訟(最高裁平成2年3月23日第二小法廷判決)

【事実の概要】
サラリーマンのA氏は、小型自家用車を68万で購入し、通勤や外回りの業務で仕事に使ったり、仕事が休みの日はドライブなどプライベートで使ったりしていたそうです。仕事で使っていた割合は、平日の通勤と、外周りは週に1、2回だったそうで、仕事で使っていた割合が圧倒的に多かったようです。購入から5年後に、A氏はその車を運転中に自損事故を起こしてしまいました。修理代が高くつくことがわかり、その車を3000円でスクラップ業者に売却したそうです。
そこでA氏は、この車の事故直前の時価相当額15万円と、実際の売却価額の3000円との差額の14万7000円を資産の譲渡損失として、給与所得と損益通算し、還付申告を行いました。が、これを税務署長が認めず更正処分をしたため、A氏がこの処分の取り消しを求め、裁判になりました。

【結論】
この裁判は最高裁までいきましたが、第1審、控訴審、最高裁のいずれも「損益通算はできない」としてA氏の主張を退けました。

おさらいですが、損益通算の対象となる所得は、下記の4つです。
(1)不動産所得
(2)事業所得
(3)譲渡所得
(4)山林所得
損益通算とは、これら4つの所得に赤字が生じた場合に、総所得金額からその赤字を控除することができるというものです。ただし、譲渡所得には制限があって、株式や土地建物の譲渡損失は株式同士や土地建物同士では控除できますが、他の所得からは控除できません。また、譲渡所得の損益通算については、下記の定めがあります(国税庁HPより:損益通算)

3  生活に通常必要でない資産に係る所得の金額の計算上生じた損失は、競走馬の譲渡に係るもので一定の場合を除き、他の各種所得の金額と損益通算できません。
 なお、生活に通常必要でない資産とは、次に掲げる資産です。
(1) 競走馬、その他射こう的行為の手段となる動産
(2) 主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産
(3) 主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産以外の資産(ゴルフ会員権等)
(4) 生活の用に供する動産で、1個又は1組の価額が30万円を超える貴金属、書画、骨とう等
※上記(3)については、平成26年4月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用されます。

この冒頭にあるように、「生活に通常必要でない資産」に係る損失は、損益通算できないとされています。これはプライベートの車を売って損が出ても、給与所得と損益通算はできない、と言っています。
実はこの裁判、第1審と控訴審で結論は同じなのですが、見解が少し異なっています。
第1審では「生活に通常必要な資産ではあるけれど、生活の用に供する動産(上記に3(4))に該当するから損益通算はできない」とし、控訴審では生活に通常必要でない資産だから損益通算はできない」としています。第1審では、該当の車が大衆車であることや、当時の車の普及状況、A氏が仕事で使っていた割合が多かったことなどから、生活に必要な動産ではあるが、譲渡所得が非課税とされる生活用動産に該当するとしました。これに対し控訴審では、雇用契約においては、仕事で車を使うのであればそれは会社側が用意するべきだし、A氏は車で通勤していたのにもかかわらず、会社から通勤定期代を支給されていたので、車通勤が必須だった訳ではないでしょ、だから車は生活に通常必要な資産とは言えない、としています。
結局A氏の主張は認められなかったのですが、1つの裁判で結論は同じでも、このように理由が異なっている場合があるという、面白い例だと思います。

A氏の気持ちも・・・

タイトルからしてもっとシンプルな裁判なのかと思ったのですが、なかなか奥深かったです(^-^;
もっと突っ込んで議論すると、「サラリーマンの必要経費」の範囲まで及びますね。
でもA氏の気持ちもわからなくもないと思いました。A氏はただ車が好きだったからなのか、車通勤の方が効率が良かったからなのかはわかりませんが、とにかく自家用車を仕事にたくさん使っていた訳です。その車で事故を起こし廃車になってしまって、損をしたのは明らかなので、どこかで取り返したくなったのでしょう。ただ、通勤定期代をちゃんともらっていたので、すごくフォローするほどでもないのですが(^-^; 
ちなみにですが、もしこの定期代が「非課税交通費」とされていて、実際のマイカー通勤手当の非課税限度額(国税庁HPを超えてしまっていたら、給与課税されちゃいますよね(^-^; 税金を安くしようと思って起こした裁判なのに、結果、高くなる可能性もあったのではないかと・・・。細かい話ですが、そこまで考えて裁判したのかなぁと思ってしまった判例の紹介でした(^-^; 

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