「親子歯科医師事件」・・・所得はいったい誰のもの??

2科目免除大学院
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租税判例百選を読む⑤

確定申告作業の真っただ中です。新型コロナウイルスの影響で申告期限は延長し確定ましたが、最近は所得税のお仕事ばかりです(^-^; 
私は4月から大学院行き、2年後の税理士試験2科目免除を受ける予定でいます。大学院は無事に合格したので、ちょっと4月が待ち遠しい気持ちです(^^) 大学院では法律を中心に学び、修士論文を書いていくことになるのですが、最近はその準備のために「租税判例百選」を読んで勉強をしています。今回もその中から1つ判例の紹介と、私が直面した似たような事例を交えて書いていきたいと思います。所得は誰のものか?どうやって決めるのか?といった論点です。

※過去の租税判例百選シリーズも、ぜひご覧ください。
①脱税のための手数料は損金になるか??
②メガネの購入は医療費控除できる??
③交際費とは?「オートオークション事件」
④サラリーマンが自家用車を売却して損益通算??

課税物件の帰属・・・「親子歯科医師事件」(東京高裁平成3年6月8日判決)

【事実の概要】
X氏は歯科医師で、個人事業として歯科診療所を20年以上営んでいました。X氏にはAという子供がおり、Aもまた歯科医師の国家資格に合格しました。Aは合格したのち、個人事業主として開業届を税務署に提出し、X氏の診療所に従事しました。その年の確定申告ですが、その診療所で生じた収入と経費を、X氏とAで折半して申告をしました。
これについて税務署長YはAは独立の事業者ではなく、X氏の専従者であり、診療所の事業所得はすべてX氏に帰属するものとして、更正処分を行いました。X氏はこれを不服として出訴し、裁判になりました。

【結論】
地裁、高裁ともにX氏の請求を棄却し、X氏敗訴となりました。

所得税は累進課税です。所得が高くなればなるほど税率は上がり、税負担が増します。ですので、1つの所得を複数人で分ければ、1人の所得は抑えられ、税金も安く済みます。X氏はそれを意図していたのでしょう。ポイントは「所得の帰属をどのように決めるか」ということだと思います。税金の分野では「実質所得者課税の原則」というものがあり、形式と実質が異なっている場合には「実質」に従うべきと規定されています。今回の事例に当てはめると、Aが個人事業主として開業届を提出したものの、実質はX氏が診療所の経営主体であり、その子供であるAは従業員である、という解釈のようです。X氏が経営主体であることの理由として、下記が上げられています。
・今の診療所があるのはX氏が20年以上蓄積した結果であって、それを突然に経験の浅いAと折半できる理由がない。
・Aの「開業」に際し行った医療機器などの設備投資の売買契約の当事者がX氏であり、そのための銀行借り入れの名義もX氏である。
・その銀行借り入れのため、X氏所有の土地建物に根抵当権が設定されている。
・診療所の収支について、X氏とAとの区分がされていない。お金の区分けもされていない。
・X氏夫妻とA夫妻は同じ建物内に居住していて、別世帯と言えない。


なんか、全然ダメな感じですよね(^-^; 
一応、A氏が参画したことにより診療所の業績はかなり上がったそうですが、認められませんでした。ただ、所得は誰のものなのか、どうやって決めるのかは、結構難しい論点のように思います。次に、最近私が直面した事例を紹介したいと思います。

1つの個人事業を、2人で行う方からのご相談

既存のお客様からのご紹介で、ある新規事業を行う予定の方2名(M氏とK氏)とお会いしました。お二人は経営をすることは初めてで、税金のことも良くわかっておらず、色々相談を受けたのですが、その相談の一つに「この事業から出た利益は、2人で完全に折半したい」というものがありました。その瞬間の私のイメージは、「利益を半分にしてそれぞれ所得税の申告をして、税負担も(所得控除などの差はありますが)同じにしたいということだろうなぁ」といった感じでした。最初は、「残ったお金を半分ずつに分けたらどうか」と思ったりもしました。ただ、この事業は設備投資が必要なため、減価償却費が発生します。また、その設備投資やテナント代などのため、銀行借り入れもすると言います。そうすると利益とお金は一致しないし、折半をするための管理がかなり煩雑になるような気がしました。また、私の経験上「共同経営」のような形で事業を始めると、途中で方針が合わなくなって、だいたい失敗します(^-^; じゃあ失敗したはときどうするのか、などと考えていると訳がわからなくなってきました(@_@)
話を整理していくと、テナントや銀行借り入れはM氏が当事者として行い、K氏は契約関係には加わらないことがわかりました。お二人の気持ちとして折半をしたかったようなのですが、このような契約などの要因から、あくまで経営主体はM氏であることをご理解頂き、K氏は別の個人事業主としてM氏から業務を請け負い、対価は歩合とすることで話はまとまりました。

逆に、完全に折半する方法はあるのか?

この事例は、事後的に相談を受けたので、結果的に整理ができたのですが、仮にかなり事前に「利益を完全に折半できるように事業を行いたい」と相談を受けた場合、どのようにしたら良いか、かなり悩むだろうなぁと思いました(*´Д`) 例えば、銀行融資です。連帯保証人として契約していれば折半の要件として満たされるのか、もしくは融資もちゃんと折半して受ける必要があるのか。また、テナントの契約は保証人として契約していれば良いのか、別の契約方法があるのか、などです。契約関係のことばかり触れていますが、実態として、業務は同じ質と量を行っている必要があるとすると、それはどうやって証明すれば良いか、とか考えます。消費税は基準期間の課税売上高が1000万円を超えると課税事業者になりますが、この1000万円も折半して考えて良いのかどうかも、考える必要があります。もしかすると、同じ人間なんていないので、個人事業で完全に折半する方法なんてないのではないかとも思います(^-^; じゃあ折半ではなく、6:4とか7:3とか割合を決めて分配するとしたら、何を基準に行えば良いのか・・・、考えるとキリがありません(^-^;
これについては今のところ私の中で答えは出ていませんでして、この辺りを大学院で研究していきたいと思っています(^-^;

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