全ては、社長との信頼関係をどう築くか!
会計事務所の経験者であれば、誰もが経験があると思うのですが、経験の浅い若い頃「社長との打ち合わせ、嫌だなぁ~。行きたくないなぁ。」と、思ったことはないでしょうか??私は若い頃、毎日のように思っていました(^-^; 理由は、相手は自分より年上で社会経験が豊富で、どんな質問をされるか不安ですし、質問をされても、答えがわからないことがほとんどで、それで自信を失くしたり、社長との信頼関係も築けずに帰ってくることが多いからです。これが蓄積すると、社長から「担当を替えてほしい」となり、自分もさらに自信を失って、悪循環に陥ってしまいます(*´Д`)
今回は、そんな会計事務所の初心者でも、社長の信頼を得ることができて、最短で一人前になる方法をお教えします。
ポイントは2つだけ!
会計事務所の初心者が社長から信頼を得るために、必要なことは次の2つです。
① STRAC(ストラック)を学ぶ
② 相手の会社のビジネスモデルを把握する。
本当は先に、相手のビジネスモデルを把握できることが望ましいのですが、これには意外と、経験と時間が必要になります。ですので、まずは「STRAC」をしっかり学んで、同時にビジネスモデルを把握していく手順を取った方が 一人前になる近道だと思います。
社長から「うちは月に、いったいいくらの売上を上げれば良いの?」と聞かれた時に、瞬時に説明できると、信頼の獲得に繋がります。まずはそこを目指すことから始めましょう。
STRACとは何か
「STRAC」は、 ストラテジー(Strategy:戦略)と、アカウンティング(Accounting:会計)を くっつけた造語です。日本語では戦略会計といったりします。STRACについて調べると、PとかMとか、何だかやたら記号が出てきてきます・・・。しっかり学ぼうとすると奥深いですが、会計事務所の初心者が深いところまで学ぶ必要はありませんので、ここではすごく簡単に説明します。STRACを一言で言うと、「その会社の本当の損益分岐点売上高はいくらかを把握すること」になります。これを自信をもって社長に説明することが、会計事務所の担当者が社長から信頼を得るための第一歩になります。
損益分岐点
それでは損益分岐点について考えていきたいと思います。
会社の損益計算書の大項目は、下記にように構成されています。
【勘定科目】 | 金額 |
売上高 | 100,000 |
売上原価 | 60,000 |
売上総利益(粗利益) | 40,000 |
固定費 | 35,000 |
利益(税引き前) | 5,000 |
法人税等 | 1,500 |
当期純利益 | 3,500 |
まず、社長には、損益計算書でおさえて頂きたい項目は、売上高、売上原価、粗利益、固定費、利益(税引き前)の5つだけであることを意識してもらいましょう。損益計算書は経費の項目が細々していますが、まずは細かいところは気にせず、大局的に認識しましょうと、説明しましょう。
この会社は利益が5000あって、黒字ですね。一見、業績は良さそうに見えますし、税引き後の利益が3500ですので、この分お金が増えているようにも考えられます。しかし、実際のお金の動きはこの通りにはなりません。経営は、とにかく「お金」が最重要です。黒字倒産という言葉もあるくらいで、黒字でもお金がなければ潰れてしまいますし、赤字でもお金があれば継続できます。ですので、このあとに「お金」がどうなっているかを確認する必要があります。損益計算書の下に、キャッシュフローを明示してみたいと思います。
< 損益計算書 > | |
【勘定科目】 | 金額 |
売上高 | 100,000 |
売上原価 | 60,000 |
売上総利益(粗利益) | 40,000 |
固定費 | 35,000 |
(うち減価償却費) | 5,000 |
利益(税引き前) | 5,000 |
法人税等 | 1,500 |
当期純利益 | 3,500 |
< キャッシュフロー > | |
減価償却費 | 5,000 |
借入金の元本返済 | -10,000 |
増減 | -1,500 |
損益計算書に固定費の内訳として、「減価償却費」5000を補足しました。減価償却費はお金が出ていかない経費なので、キャッシュフローではプラスに働きます。また、この会社は銀行借り入れがあり、月々元本の返済を行っています。この元本の返済は、借りているものを返しているだけですので、支払っても経費にならないため、キャッシュフローでマイナスに働きます。税引き後の利益である3750のお金が増えているように見えるのですが、経費になっていてもお金が出ていかないものや、支払っていても経費になっていないものの動きを加えると、なんとこの会社は、100000の売上でもお金が1500減ってしまうことになります。
それではこの会社は、いったいいくらの売上を上げれば、お金が減らない経営ができるのでしょうか?次の表をご覧ください。
< 損益計算書 > | ||
【勘定科目】 | 金額 | 率 |
売上高 | ?? | 100% |
売上原価 | 60% | |
売上総利益(粗利益) | 42,142 | 40% |
固定費 | 35,000 | |
(うち減価償却費) | 5,000 | |
利益(税引き前) | 7,142 | |
法人税等 | 2,142 | 利益の30% |
当期純利益 | 5,000 | |
< キャッシュフロー > | ||
減価償却費 | 5,000 | |
借入金の元本返済 | -10,000 | |
増減 | 0 |
先ほどの表に「率」を加えました。損益分岐点売上高は、下から考えていく必要があります。まず、キャッシュの増減ゼロとしたい場合、当期純利益が5000必要であることがわかります。中小企業の法人税の実効税率は、おおよそ利益(税引き前)の30%です。とすると、この当期純利益5000を70%で割り戻した金額が、利益(税引き前)として必要です。
5000÷70%=7142が必要となります。
さらに、経営上、固定費は売上に関係なく生じるコストだと認識すると、固定費は35000のまま変わりません。そうしますと、売上総利益(粗利益)が、7142+35000=42142ほど必要であることがわかります。ここまでくるとお分かりですね。この粗利益42142を粗利益率40%で割り戻してあげれば、必要な売上高が導き出せます。
42142÷40%=105355が、この会社にとって、お金が減らない経営をするために、必要な売上高となります。
< 損益計算書 > | ||
【勘定科目】 | 金額 | 率 |
売上高 | 105,355 | 100% |
売上原価 | 63,213 | 60% |
売上総利益(粗利益) | 42,142 | 40% |
固定費 | 35,000 | |
(うち減価償却費) | 5,000 | |
利益(税引き前) | 7,142 | |
法人税等 | 2,142 | 利益の30% |
当期純利益 | 5,000 | |
< キャッシュフロー > | ||
減価償却費 | 5,000 | |
借入金の元本返済 | -10,000 | |
増減 | 0 |
これを瞬時にスムーズに説明できるかが、最短で一人前になるための第一歩といえます。あとはこれをいかに応用できるかです。この説明をすると、社長から「売上105355なんでムリだ」と言われてしまうことが多いです(^-^; その場合の答え方はいくつかあります。例えば、次のようなものになります。
・売上高は、「単価 」✕「数量」で計算されるので、「単価」を上げるか、「数量」を増やすか、その両方を行うか、検討してもらう。
・原価率を下げれば、損益分岐点は下がるので、取引先との仕入れ単価交渉や、別の取引先を探すことを検討してもらう。
・固定費について、役員報酬を含め、人件費の見直しや、採算の合わない広告費などの必要性を再考してもらう。
トークのネタとしてはこれらを準備しておいた方が良いですが、これらの問題に着手することは実際はなかなか難しいです。そうすると、あとはやはりキャッシュフローの部分に注目します。この会社の問題は、借入金の返済額が多いことです。現状の業績では1500のキャッシュが足りないので、これを手当しないといけないことになります。ただ、逆に考えると、足りないのは1500だけなので、仮にこれをまた銀行融資で補填したとしても、8500の借入金は減る訳です。借りる金額より返す金額の方が多いので、借入金の残高は毎年減っていき、いつかは借入金が返せることになります。これはある意味中小企業の経営としてはとても健全です。
また、このケースとは別に、「役員報酬を〇〇万円ほしいのだけれど、その場合は、売上をいくら上げれば良いか?」といった質問にも対応できることになります。先ほどの固定費を、その分増やしてシュミレーションすれば良いですよね(^^)
このような話をできるようになると、社長との会話が成立し、信頼関係が築けるようになります。
まとめ
STRACとは、お金の動きを含めた会社の損益分岐点売上高を把握することです。そんなに難しくないですよね(^^) この基本をおさえておけば、社長からの数字の質問については、自信を持って回答することができます。
私も駆け出しのころ、税務の知識すらまともに備わっていなかったので、このSTRACを勉強するまでは、打ち合わせのたびに「何を話したら良いかな・・・。」と毎回悩んでいました。会計事務所の上司にSTRACの話し方などを教えてもらい、そのマネをしているうちに、話し方のコツも学び、徐々に自信に繋げていってことを覚えています(^^)
中小企業の社長は、自分がトップセールスマンだった方が多く、売上を上げることは大得意でも、自社の損益構造がどうなっているかまでを把握できている方は、そう多くないように思います。社会経験は相手の方が豊富ですが、数字に興味のない経営者はいませんし、税務会計の分野では、若くてもこちらの方が優位に立てる可能性が高いです。まずはこのSTRACの考え方をマスターして頂いて、こちらの得意分野に社長を呼び込んで、現場で試して頂きたいなと思います(^^)
最後に、私が駆け出しの頃にSTRACを学ぶために読んだ本をご紹介します。
シンプルに書かれているので、読みやすかったです。
社長との信頼関係を築くためのポイントの2つ目、② 相手の会社のビジネスモデルを把握する。ですが、こちらはまた別の機会に書いていきたいと思います。
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